顔面醜状等により,35%の労働能力の喪失を認められ,金4017万円増額
1 事案の概要
依頼者は,自転車で交差点を横断中,加害自動車に衝突され,顔面外傷後病痕,知覚異常,左下腿骨折等の傷害を負いました。
依頼者は,本件事故当時,22歳の女性で,海上自衛官をしておりましたが,鼻から頬部にかけて白色脱色と線状痕が残存しており, 女子の外貌に著しい醜状を残すものとて,当時の後遺障害等級7級12号に該当すると認定されていました。
また,依頼者は,左下腿痛が残存し,局部に神経症状を残すものとして,当時の後遺障害等級14級10号に該当すると認定されていました(併合7級)。
2 訴訟前の交渉
依頼者は,相談時,相手方保険会社から,次のとおり,金2209万円の損害賠償の提示を受けていました。
後遺障害逸失利益
→金652万円
合計 金2209万円
合計 金2209万円
(うち既払金726万円)
当事務所は,本件事故について,依頼者から,委任を受け,相手方保険会社との間で,交渉を始めました。
当事務所は,交渉の結果,相手方保険会社から,次のとおり,金454万円増額した金2663万円の損害賠償の提示を受けるに至りました。
後遺障害逸失利益
→金652万円
合計 金2663万円
合計 金2663万円
(うち既払金726万円)
相手方保険会社は,依頼者の顔面醜状について,労働能力を喪失するものではないとして,後遺障害等級14級を前提に,後遺障害逸失利益を算定するにとどまりました。
相手方保険会社は,依頼者の顔面醜状について,労働能力を喪失するものではないとして,後遺障害等級14級を前提に,後遺障害逸失利益を算定するにとどまりました。
そこで,当事務所は,訴訟を提起するに至りました。
3 訴訟の結果
3 訴訟の結果
(1) 第1審の結果
ア 当事務所の主張立証
顔面醜状は,労働能力に特段の影響を及ぼさず,被害者がモデル,ホステス等の外貌が重視される職業に就いている場合でなければ,喪失が認められないと一般的に言われていました。
そこで,当事務所は,コミュニケーションにおいて,会話の内容そのものよりも,外見,表情といった要素が重要であると主張立証しました。
実際に,アメリカの心理学者により,コミュニケーションにおいて,会話の内容そのものが7%,外見,表情が55%,話し方が38%の重要性を占めるという報告がなされています。
当事務所は,このような報告を基に,依頼者が顔面醜状のみならず,知覚異常で表情をうまく作れず,海上自衛官として必要な職場でのコミュニケーションや対外広報活動が困難になり,労働能力を喪失している旨主張立証しました。
また,当事務所は,依頼者の左下腿痛にも着目し,十分に運動することができないため,艦船での乗務が困難となり,昇進が望めないことも,併せて主張立証しました。
イ 判決
第1審は,当事務所の主張立証を認め,依頼者が業務上相当程度の不利益を受けているとして,就労可能期間全期間にわたって,労働能力を35%喪失していると認めました。
第1審は,次のとおり,後遺障害逸失利益を金2112万円認め,合計金6878万円の支払を命じる判決を言い渡しました。
後遺障害逸失利益
→金2112万円
合計 金6878万円
(うち弁護士費用金370万円,確定遅延損害金2041万円,既払金726万円)
合計 金6878万円
(うち弁護士費用金370万円,確定遅延損害金2041万円,既払金726万円)
(2) 控訴審の結果
控訴審も,第1審の判決を支持し,金6226万円(うち既払金726万円)の支払を内容とする和解が成立するに至りました。
4 本事例の意義
顔面醜状による労働能力の喪失は,ホステスやモデル等の外貌が重要な意味を持つ職業でなければ認められないと一般的に言われていました。
そのような中,本事例は,海上自衛官の顔面醜状について,就労可能期間全期間にわたって,労働能力の喪失が35パーセント認められたことに意義が認められます。
また,依頼者は,相談時,相手方保険会社から,金2209万円の損害賠償の提示を受けていたにすぎませんでしたが,当事務所による受任の結果,訴訟により,金4017万増 額した金6226万円の高額の損害賠償金を取得するに至ったことも,大きな意義が認められます。
本事例は,その意義が認められ,判例集や実務で一般的に参照される赤い本においても紹介されています(長崎地裁大村支部平成17年10月28日判決・公民38巻5号1493頁)。
以上